シニアライフ、小説に学ぶ豊かな老後 ・・・ 第10弾は 「喫茶おじさん」 原田ひ香

シニアライフ、小説に学ぶ豊かな老後 ・・・ 第10弾は 「喫茶おじさん」 原田ひ香 定年小説・ノウハウ本

定年後はどうするか?このような未経験の事を考えるときは情報収集?勉強?シニアライフ老後参考書としては定年・還暦・高齢者をテーマにした小説も見逃せません。

日常生活の喜怒哀楽を描き、私たちにいろんなことを考えさせてくれる参考書であり楽しい娯楽作品です。前回、第9弾小説に学ぶ「定年オヤジ改造計画」に続き、原田ひ香さんの「喫茶おじさん」のご紹介です。

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「喫茶おじさん」 原田ひ香

著者の原田さんは「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。著書に「三千円の使いかた」「喫茶おじさん」「そのマンション、終の住処でいいですか?」「彼女の家計簿」「東京ロンダリング」などがあります。

「三千円の使いかた」は節約家族小説とよばれ、フジテレビでドラマ化もされて大ブレイク。2022年上半期のベストセラーランキング、オリコン・トーハン・日販、三冠達成されている人気作品となりました。

三千円の使いかた | 東海テレビ
2023年1月7日スタート。家族3世代、4人の女性が、お金と人生の悩みに向き合いたくましく乗り越えていく。ありそうでなかった!ホーム“マネー”ドラマが誕生!

今回ご紹介する「喫茶おじさん」は食に関する著書も多い原田さんの2023年の小説。純喫茶店好きの早期退職した57歳のおじさん、松尾純一郎の物語。喫茶店めぐりが好きなシニアの私には大変興味深く、また老後生活の勉強にもなるこの作品。

実名は伏せてありますが、実在する有名な喫茶店や名物メニューが詳しく紹介されているところも魅力。知ってる店があると2倍楽しめます。(最後に私の見解でお店を並べてみました)

早期退職金で始めた喫茶店は失敗、バツイチ、バツ2にリーチ状態、こんな、どこかさみし気な無趣味だった主人公の純一郎。彼が巡る純喫茶でコーヒーやこだわりのサンドウィッチ、スイーツを一人で楽しむ姿、原田さんの素晴らしい描写にぐいぐい引き込まれます。

シニアの私には共感出来てジーンとくるシーンも多く、優しい気持ちになれるこの作品。仕事、出世、家族、友達、老後の生活、生きる意味、生きた証、自分らしさとは?いろいろと考えさせられました。

今回もネタバレにならない程度に、シニライフの参考となる心に残った名言の数々、名場面を切り取って、過去の振り返り、これからの人生について考えてみたいと思います。

趣味がなかった 一月 正午の東銀座

これまでこれといった趣味はなかった。現役時代は休日は疲れ切って寝てばかりいたし、起きれば妻の「ちょっと亜理紗を見ていてちょうだいよ」の声に追いかけられていた。

p16

銀座の喫茶店でコーヒーを飲みながら純一郎が過去を振り返り、純喫茶巡りを趣味にしようと決めるシーン。ゴルフは仕事の付き合いが絡んでいるしスポーツは苦手、囲碁将棋は下手で賭け事は嫌い、「勝ちたい」と思ったことがないという描写、こんなサラリーマン沢山いるんですよね、リアリティーがあります。

仕事と家庭の問題をクリアして、自分の好きな時間を楽しんできたビジネスマンはどれくらいいるのでしょう?私もなんとなく生きてきたわけではないけれど、改めて自分を主語にして考えたとき、本当に楽しめた付き合いの時間は少ないかもしれません。同調圧力が常にあったのかも。

夢中になって打ち込めた趣味と言えるもの、何もない自分がここにもいます。考える時間と気持ちの余裕がなかったと言えば、言い訳になりますが・・・。色々やってはみたものの、どれも中途半端な結果に。私も、喫茶店巡りでも始めて見るか、居酒屋巡りより財布にも身体にも優しそうですし。

再就職の面接 二月 午後二時の新橋

烏森口まで来ると、自然にため息が出た。学生時代の友人、宮沢浩一が紹介してくれた会社に出向いて、再就職の面接試験を受けた、その帰りであった。

p26

友達に再就職を頼む。これは経験した方じゃないとわからないと思いますが小説にはリアルに描かれています。面接での会話、期待されている内容、甘くない現実、打ち砕かれるプライド。私は、まだこのような経験はありませんが、想像に難くありません。

主人公はニュー新橋ビルの喫茶店で自分の状況を考え少々ブルーに。サラリーマンの聖地として親しまれたこのビル、私もランチ、飲み会と大変お世話になった思い出深き場所。再就職の苦労話が身近に感じられます。

このビル、築50年は越えていますが、まだまだ現役で頑張っています。小説に紹介されている喫茶店もよく知っているお店。久しぶりに訪ねて、サラリーマン人生を振り返ってみたくなります。ガッツリお腹を満たしてくれるお得でおいしいランチのお店もたくさんありますし。

ニュー新橋ビル

職安で 三月 午後三時の学芸大学

週休二日で月十五万の求人がないなら、この国でどうやって生きていけばいいんだ。純一郎は自分のこと以上に、若者と日本を憂えてしまった。

p54

職安で希望を述べて、担当の若い女性から「そんな求人は一つもないと思ってください」と返されます。さらに、歳の問題だけじゃなく、若い人でも同様にないと言われます。そして、やっと見つかった会社には応募が100人以上という厳しい絶望的な現実。思いは叶いません。

売り手市場と言われますが、条件等考えると現実は厳しいんですね。雇用形態が変わったとはいえ正規と非正規の間には大きな壁があるのは事実、同一労働同一賃金が推進されていますが、この問題は時間がかかりそうです。

定年後の再就職については、再雇用や新たな職場、独立など様々な選択肢がありますが、小説の主人公は喫茶店経営を始めてあっという間に失敗。独立して失敗したり、投資に失敗して退職金を溶かしてしまった話は私も聞いたことがあります。人それぞれだと思いますが、難しい問題です。

私は現在再雇用ですが、これはこれで人には言えない苦労が多々あります。普通が一番難しいと言いますからね。会社には失礼な話かもしれませんが、健康のために働いているんだと自分を慰めることにしています。給料も年金も驚くほど安いのが現実なんですよ。

そろそろ再雇用期間も終了する私。ハローワークへ行くのも時間の問題、どうなることやら心配です。

老後の不安 八月 午後一時の新橋

「でも、老後が不安だし」

「本当のところ、いくら必要なんですか?一カ月に。わかってます?そして、退職金なんかはいくら残っていて、それは投資とかしてないんですか?」

p155

主人公が独立開業した喫茶店で雇っていたアルバイトに仕事や老後の生活、年金について話をしていた際に言われたきつい一言。収入は少なくても自分の好きな仕事をして、毎日食べられるだけ働けばいいんじゃないか、という考え方の若者が少なくないという。

生活、将来設計については若者の方が情報も多く、ある意味現実的なのかもしれません。日々、目の前の事に追われていた昭和のサラリーマンには人生を俯瞰的に見ることが苦手なのかも。お小遣いのやりくりさえ大変だったのに、急にひとり身になって家計を含めた生活全体を見ろって言われても困ってしまいます。

私の場合夫婦生活が長いので、良くも悪くも役割分担ができています。今一人になって、生活全部考えろと言われたら自身はありません。今まで考えたこともありませんでしたが、自立的な物事の考え方もシニアには防衛手段として必要かもしれません。

例えば、よく言われる住環境の問題。老後を考えると長年住み慣れた家ですが、売却して小さな家に引っ越せば良いという理屈はわかります。しかし、生活全体が大きく変わることでもあり決断するには勇気が必要です。

同僚との比較 十月 夜十時の池袋

四十過ぎたら、皆の差が・・・・会社員としての差、家族の差、子供の差、そして、人間としての差・・・さらには口には出せないが、たぶん資産の差。

p188

以前の勤めていた同期会があって少し前に友人と落ち合って話をするときのシーン。30代の頃の同期会と違い、今は気軽に皆と飲めなくなった、太宰治の小説に出てくる「諦念」という言葉が純一郎の頭をよぎる。

定年近くなって、じたばたしてもしかたない。やはり、こう考えるのが普通なんでしょう、諦めるというといカッコ悪いし、負けを認めるようで嫌な感じですが受け入れることも必要なのかも。こんな時、家族ぐるみで付き合っている、なんでも相談できる友人がいると心強いと思いますが、なかなかそんな友人はいないですよね。

名誉と地位、お金がすべてじゃないと言いますが、無いよりあった方がいいと思うのも道理。人と比べてもしょうがないことだと分かっていますが考えちゃう人が多いのではないでしょうか。

私はもう65歳、この手の悩みは卒業しちゃいました。時間が解決することもありますよ。

池袋 西口

自分を振り返る 十月 夜十時の池袋

こうして人生の時間を潰す、というのも喫茶店の大切な役割だ、と思う。
目の前にいた、四人の老若男女たちは気がつくともういなかった。終電前に帰ったのだろう。

p204

ここは新宿三丁目の24時間営業の喫茶店、お店にはいろんな人がいる。そんな人たちをウオッチしながら自分の過去に思いを馳せ、自分を見つめなおす大切な時間を過ごすシーン。

私が若いころは終電が無くなり帰れなくなると、歌舞伎町の深夜喫茶にお世話になったものです。学生にはタクシー代金を払う余裕もなく、泣く泣く高いコーヒー代(タクシー代より格段に安いですが)を払って始発まで粘ったものでした。うれしいのはコーヒーに、なぜかトーストが付いてきたことを覚えています。

漫画喫茶やネットカフェ、そしてスマホもない時代、思えば良き時代でした。

小説に書かれている通り、年も仕事も格好も色々な人が独特の雰囲気を醸し出して一つの空間を共有しているという、不思議な世界がそこにはあります。

深夜喫茶、自分と向き合うには最適な場所かもしれません、人も時間も気にしなくていい特別な場所です。始発に乗って帰るときの、気だるい感覚も懐かしい。

喫茶店を舞台に繰り広げられる純一郎の人生模様。自分事として考えられる事も多く、今一度立ち止まって、これからの自分を見つめなおすきっかけを与えていただきました。自宅ではなく喫茶店というオアシスで。

登場する魅力あふれる喫茶店24店舗

この小説には多くの喫茶店が登場し、お店の様子や名物メニューが素晴らしい描写で描かれています。私の独断なので違うかもしれませんが、描かれている内容から「たぶんここだろう」と思う店をあげてみます。

こうして並べてみると素敵なお店ばかり。何件か行ったことがありますが、すべて巡ってみたくなりました。お店を訪問して別の機会に紹介できればと思います。これは価値ありです。

・銀座   「喫茶アメリカン」 タマゴサンド p11
・東銀座  「カフェ パウリスタ」 キッシュとケーキセット p18
・新橋   「喫茶 フジ」 クリームソーダ(ブルーハワイ) p28
・学芸大学 「平均律」 クロックムッシュ フレンチトースト p56
・学芸大学 「マッターホーン」 ミルフィーユ ダミエ(バタークリーム) p59
・東京駅  「イノダコーヒー」 ビーフカツサンド p74
・東京駅  「TORAYA TOKYO」 あんみつ 白玉団子と花豆付き 黒蜜 p77
・上野   「王城」ミートソース p95
・御徒町  「ダンケ」バターブレンドコーヒー レアチーズ p99
・渋谷   「茶亭 羽富」 ビーフサンド 紅茶のシフォンケーキ p109
・渋谷   「TOP’S 渋谷」 ビーフカレーセット p113
・根津   「カヤバ珈琲」 たまごサンド レモンスカッシュ p135
・根津   「 ペコ」 アールグレイ スコーンのクリームティー p139
・新橋   「ポンヌフ」 ハンバーグセット アイスコーヒー プリン p160
・新橋   「パーラーキムラヤ」 プリンア・ラ・モード p164
・赤羽   「純喫茶 デア」 モーニングA バタートースト p171
・赤羽   「梅の木」 モーニング 厚切りトースト アイスコーヒー p172
・赤羽   「プチモンド」 フルーツサンド 焼きそば p183
・池袋   「伯爵」 オムライス コーヒー p198
・新宿3丁目 「珈琲貴族エジンバラ」 コーヒー バナナクレープ p202
・京都   「築地」 ウインナー珈琲 p213
・京都   「イノダコーヒー本店」  ロールパンセット p220
・京都   「喫茶マドラグ」 たまごサンド p223
・淡路町  「ショパン」 アンプレス(あんバター)p238

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