シニアライフ、小説に学ぶ豊かな老後 ・・・ 第7弾は 「老害の人」 内館牧子

シニアライフ、小説に学ぶ豊かな老後 ・・・ 第7弾は 「老害の人」 内館牧子 定年小説・ノウハウ本
photo by ゆう

定年後はどうするか?このような未経験の事を考えるときは情報収集?勉強?シニアライフ老後参考書としては定年・還暦・高齢者をテーマにした小説も見逃せません。

日常生活の喜怒哀楽を描き、私たちにいろんなことを考えさせてくれる参考書であり楽しい娯楽作品です。前回、第6弾小説に学ぶ「九十歳。何がめでたい」に続き、内館牧子さん「老害の人」のご紹介です。

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「老害の人」内館牧子

著者の内館さんはOL生活を経て1988年より脚本家、作家の道を歩まれています。朝ドラ「ひらり」の原作脚本、大河ドラマ「毛利元就」のオリジナル脚本など担当されていました。

「ひらり」は主演の石田ひかりさんやドリカムの「晴れたらいいね」の主題歌で覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。また、横綱審議委員会審議委員をつとめられ、好角家としても知られています。

高齢者小説と呼ばれる、以前ご紹介した「終わった人」、「すぐ死ぬんだから」「今度生まれたら」に続く第4弾がこちら「老害の人」となります。

納得、共感できる部分が多く楽しくテンポよく読むことが出来ます。考えさせられる場面も多く、学びと課題を沢山いただけます。シニアの参考書のような小説というのが私の感想。

老害という言葉、耳障りがいい言葉ではありませんが、すでに市民権を得ており私も気にする年になってきました。小説内では孫自慢、元気自慢に病気自慢、趣味自慢、昔話に同じ話の繰り返しと、やりたい放題で笑うしかありませんが、身近にある話ばかりなので、他人事とは言っていられません。

コロナ禍でのリアリティに富んだ話、日本が抱える社会問題など、ある時は面白く、ある時は涙を誘う心に染み入る物語が展開されます。読後感として、亡き父ともっと話をしておけばよかった、高齢の母にもっと会いに行かなくては、そう思わせてくれる小説でした。もちろん、自分の反省も。

今回もネタバレにならない程度に、シニライフに参考となる心に残った場面を切り取って、過去の振り返り、これからの人生について考えてみたいと思います。

引退したのに肩書?

「肩書は『経営戦略室長』にしてくれ」

p14

社長の座を譲った福太郎だが、会社に一部屋残してもらうことに。気を利かせた新社長、肩書は顧問か相談役、名刺も作りましょうかと言ってくれる。福太郎はこの肩書にダメ出し、そして出たこの発言。顧問とか相談役という肩書は終わったジジイが就く役職だと言い放った。

経営戦略室の設置は特に大企業で組織された戦略策定の花形部署。中小企業、特にオーナー企業にはあまり存在しない部署だと思います。社長の頭の中が経営戦略室という会社が多いのではないでしょうか?ですから、この段階で事実上福太郎は引退して社長を譲ったという気持ちには???です、やる気満々。悪気はないのでしょうが。

私世代の若い頃には無かったこの部署、1980年後半から90年代ごろに出来た部署だと思います。誰しもこの「経営戦略室長」という肩書と言葉の響きに憧れがあったのではないでしょうか?

社長を引退して肩書が経営戦略室長、まさしく老害かもしれませんね。

人の話を聞かない人たち

カルテットの4人は、それぞれが自分のパート演奏に夢中で、他のパートなど聞いちゃいないのだ。聞こえなくても問題ない。

p37

カルテットとは福太郎のお仲間達、自慢話パートに病気自慢パート、体力自慢パート、そして夫のパートに和音を重ねる妻。他のパートが割り込まないように喋りまくるのだ。

年配の方と話をすると自分の話に終始して人の話を聞いていない。こんな経験は皆さんもあるのではないでしょうか?いつ頃からこうなるのでしょう?なぜ人の話が聞けないのか?

性格?認知機能の低下で話がつながらない?自信喪失で自己主張が強くなる?難聴で話がよく聞こえていない?理由は色々ありそうです。歳を取ると怒りっぽくなるとも言われていますね。

孤独感が関係しているのかも?私も現役時代と比べると、人と話す量が大幅に減少し声がかすれてしまうときが、半日以上誰とも喋らない時が来るなんて想像もしていませんでした。その反面、仕事以外の趣味や世間の出来事など入ってくる情報は幅広く増えているわけで、誰かにこれらの話を聞いてもらいたいという気持ちは強くなっています。

つい先日までは、聞く8割、喋る2割の営業をやっていた私でさえ、今は聞く5割でさえ怪しい感じ。思いに任せるのではなく、意識しないと人の話は聞けないもの、老害の人と言われないように注意しなくてはいけません。

若い頃はギラギラしていたのに

ああ年取ったなぁって一番感じるのは・・・・欲がなくなること

p69

年を取るってどうゆうことだと思う?との問いに、息子は体が動かなくなるとか、物忘れがひどくなるとか?と答える。そこで出た答えがこれ。

確かに身体の問題もありますが、この欲がなくなるという心理的な問題は重要だと思います。幸い私はまだ欲求は生理的にも心理的にも沢山あるギラギラおやじです、悟りなんて開けていません。でも、この先こうなるのかと思うと色々と考えさせられます。満たされているわけではないんですけど、確かに物欲は減っている気がします。

脳機能や身体機能が低下して意欲が無くなるのも寂しいけれど、長く生きてきて変に悟っちゃって、夢も希望も無くなり、あきらめの境地で欲が無くなることだけは避けて通りたいものです。年に関係なく常にやりたいことを見つけて、精神的満足が得られるような豊かな老後を目指しましょう。

人は毒か薬にならにゃいかん

世の中で一番つまらねえのは毒にも薬にもならねえ人間だよ。人間として生まれた以上、人は毒か薬にならにゃいかんのだよ。

p351

老害は若い人には迷惑で、老人には生きてる証、若いやつらには毒、老人には薬だと福太郎が娘夫婦に話す。どっちにもなれない人間には魅力がまったくないんだ、という言葉にすごく共感させられた。

波風なき人生はつまらないもの、私も毒のような経験を沢山味わいましたが、今思えば成長の糧になりました。薬のような経験も味わいましたが、これがすべて良い事だったとは言えないと思います。皆さんの人生いかがでしょう?

やはり清濁併せ呑むくらいの大きな気持ちを持って臨むことが大切なのかもしれません。魅力なき、つまらない人には誰しもなりたくないはずですから。自分は薬なのか?毒なのか?一番知っているのはパートナーかも。

このラストシーンのやりとりは考えさせられました。ぜひ読んで味わっていただきたいと思います。

老害とは?最近、はやりの「定義」を自分なりに考えてみることも楽しいかもしれません。私は何もしないことが「老害」だと思っています。

ドラマのエンディング曲

「老害の人」はNHKプレミアムドラマで放映もされました。戸山福太郎役の伊東四朗さん、娘は夏川結衣さん、娘婿は勝村政信さん、その他小説のイメージ通りの素晴らしいキャスティングで大いに楽しめる内容です。

ドラマのエンディング曲もよかった。歌うのは赤い鳥、ハイ・ファイ・セット時代からファンの山本潤子さんだからなおさら。曲は堺正章さんのヒット曲「さらば恋人」。「さよならと書いた手紙、テーブルの上に置いたよ♪・・・悪いのは僕の方さ、君じゃない♪」心に響くこの歌詞。ラストソングで、過去の楽しかった時代へ一気に引き戻されました。この素晴らしい歌声も青春時代の思い出です。

少々勝手に語り過ぎましたね、「老害の人」と言われないうちに終わりにしたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。 「終わった人」「老害の人」この2冊読んだらもう止められません。次回は「すぐ死ぬんだから」をご紹介したいと思います。

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