定年後はどうするか?このような未経験の事を考えるときは情報収集?勉強?
シニアライフ老後参考書としては定年・還暦をテーマにした小説も見逃せません。
日常生活の喜怒哀楽を描き、私たちにいろんなことを考えさせてくれる参考書であり楽しい娯楽作品です。
ノウハウ本より身近なリアリティーを感じられるので飽きさせません。
ノウハウ編同様、一冊ずつ読み進めて書評をUPしていきたいと思います。
老後生活のリアルな描写が味わい深い
有名作家さんの作品も多く、映画化されている作品もありますので既にご存じの方も多いと思います。ストーリーや状況設定も工夫されていますし、誰もが興味ある分野ですからシニアに限らず家族で楽しめるのではないでしょうか。定年後の男のプライドと哀愁、妻との微妙な関係の変化、シビアなお金の問題から老いらくの恋まで、自分と照らし合わせて読み進めてみると面白いと思います。
また、改めて考えるべきことのヒントも沢山あると思います。
老後の資金がありません!を読了後映画でも観てきました。
篤子のイメージと天海祐希さんがピッタリで二度楽しめました。
定年・還暦に関する小説5選
老後の資金がありません 垣谷美雨
シニアライフ、小説編に学ぶ豊かな老後 第1弾は垣谷美雨さんの「老後の資金がありません」です。
メディアで映画のタイトル連発のコマーシャル露出も多く、名前を知らない方は少ないのではないでしょうか?他にも「定年オヤジ改造計画」、「夫の墓には入りません」、「姑の遺品整理は、迷惑です」などリアルなタイトルの作品が多くあります。垣谷さんは私と同年代であることもあり内容が身近な話題で興味もひとしおです。
還暦や老後を題材にした人間模様を描いた小説は世に多く存在していますが、「老後に資金がありません」という誰もが気にしているキャッチ―なフレーズが心に響きますね。
老後2000万問題騒ぎの余韻がまだ残っているのでなおさらです。
夫婦、舅と姑、娘と息子、兄弟、親戚、友人という関係がどうなっていくか?お金が絡むとより複雑になっていく人間模様の展開が読者をひきつけていきます。また、社会風刺も鋭く切り取られており現代社会の暗部を考えさせられる側面もあります。
人間模様だけでなく、私はこの社会風姿のシーンも興味深かったのでネタバレにならない程度に引用しながら感想を述べさせていただきたいと思います。
職場での不平等な現実
後任には、常識もなければヤル気もない四十代の正社員の男女が来た。女性社員は旅行が趣味で、朝からずっと旅行会社のサイトを眺めている。男性社員は飽きもせず、ももいろクローバーZの動画を食い入るように見つめている。上司の目がないときは、やりたい放題だ。
p68
こんな職場を主人公の篤子はパートとして契約終了を理不尽にも言い渡されてしまうわけです。同一賃金同一労働もあり改善は進みつつありますが、社員よりパートさんや契約社員の方が仕事をキッチリやっている実態は少なくないと思います。私の方がよっぽど働いていると感じている方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。
私の職場でも派遣社員の方にお世話になっておりますが、このような声が恥ずかしながら聞こえてきてます。
老後の再就職は当然社員の立場ではありません。現役時代と同じ感覚で作業指示を超えて仕事を仕切りたがったり、理不尽な社員に注意をしたりと想像の域ですが新しい職場で働く自分を想像すると複雑な心境になります。割り切って今から心の準備をするか、正義を振りかざし戦って玉砕する覚悟を持っておくか、いずれにしても準備しておいて損はなさそうですね。
見栄がじゃまする葬儀の準備
決めかねていると、本間はパンフレットを指しながら助け舟を出してくれた。「こちらの物を選ばれる方が多いようですよ」下から二番目の、12万円の棺桶だった。50万円のを勧められなくて良かったと胸を撫で下ろす一方で、どうせ燃やすのにどうして12万もするのかと思う。
p81
これは舅が亡くなり、なぜか篤子が代表で葬儀社との打ち合わせをさせられる羽目になったときのワンシーンです。責任を背負わされていることもあり、みんなの顔が浮かびお金に絡むことは決めきれない気持ちに大いに同意できるところです。このほかにも数多い葬儀社との打ち合わせ内容とその時々の心理描写が描かれており考えさせられる問題が多くありました。
自分事として考えると、確かに葬儀に関する打ち合わせは未経験で分からないことも多いですが事前に準備万端というのも考えものです。
半面、やはり費用の事は気になりますので他人事では済まされませんし、私は長男なので多分親の葬儀は仕切ることになると思います。親戚や兄弟、友人や職場などの事を考えると現実問題として見栄が邪魔するのは想像に難くありません。さすがに棺桶に50万は出す気はありませんが。。。
また、友人から聞いた話ですが、とにかく手続きが大変で時間も限られているので、ついつい葬儀社さん頼みにならざるを得ないということでした。ここは勇気を出して、世間相場を事前に理解しておき妻や兄弟とは事前にしっかり話し合っておいた方がよさそうですね。そもそも高額な戒名の仕組みもよく分かっていないので併せて調べておきましょう。
セミナー聞いて分かったつもり
司会者が出てきて挨拶をし、そのあとファイナンシャルプランナーの女性と大学教授が、それぞれ30分ずつ講演をした。篤子はメモを取るため、バッグから手帳とボールペンを出していたが、最後まで1文字も書かなかった。
p171
これは老後の資金についての講演会を聞きに行った時のシーンです。
自分の仕事上でも経験したことがあるシーンなので目にとまり気になった部分です。
必死で情報収集するのですが重複情報が多くて「がっかり」なんてことありますよね。
昔と違って情報が溢れており簡単に手に入ります。その分、情報価値が薄いというか弱いというか、そんな事知ってます的な内容が多いことも否めません。より有益な情報をあふれる中から拾い出し、自分なりに咀嚼し活かせるかで差がついてしまう世の中になってしまった気がしています。
弱者に優しくない住みにくい世になかに・・・
見たり、聞いたり、調べたりは非常に大切な事ですが、自分で実際に実践してみて失敗もして、あきらめないで立ち上がって、負けないという気持ち、我々昭和世代が受けてきた教育が見直されてもいいのではないでしょうか。そんな気付きを与えてくれる文脈でした。
老いても大事な自己肯定感と存在感
「なんだかお母さん、変わったわね」
p275
「そお、少し太ったからじゃない?」
「そうじゃなくて雰囲気が昔に戻ってる。和栗堂の店先でシャキシャキに働いている頃みたいな顔してるわ。ついこの前までは、生きる気力をなくしたみたいにぼうっとしていたくせに」
施設を出て、篤子のマンションで同居している姑を訪ねてきた実の娘との会話のシーンです。生き生きした母の姿を見て複雑な娘の心境が伝わってきます。なぜ姑さんが変わったかは、本を読んでのお楽しみです。
私が感じたことは、人は歳を重ねても自分の存在感や喜怒哀楽の感情を素直に出せる場が必要だということです。誰からも期待されない、頼りにされないことが、どれだけ苦痛かを知る事です。
高齢になると回りが心配してくれて色々と身に回りのお世話をしてくれると思います。ありがたいことですが、自分で自分の事が出来る喜びを60代の私たちはもっと感じておくべきですね。
そして、それが少しでも長く続くように努力を続けていきたいと思いました。
楽しい老後が平等に待っています
読了後の感想は一言で言うと「爽快感」です。
タイトルからはかけ離れた感想になりますが、最後は爽やかでスッキリとした気持ちになりました。
絵にかいたようなハッピーエンドということもありますが、老後は楽しくできるということが分かったからかもしれません。知識や理屈は大切ですが、それだけでは不安は解消しません。HOW TO本だけ読んでも物足りない気がするのはそのせいです。
本書を読むことで実体験ではありませんが、この先起こるであろうことは疑似体験が出来ました。嫁と姑の絆が象徴的に描かれていますが基本にあるのはお互いの信頼関係です。そして家族の絆です。信頼があれば変な遠慮も無くなり言いたいことも言えます。喧嘩にもなります。でも仲直り出来ます。素敵な人生じゃないですか。
理屈だけではどうにもならない事、考えてもしょうがない事、老後老後と騒がないで肩の力を抜いてやり過ごす勇気を持つことが大切ですね。そして、自分の居場所は自分で作る、その為には成り行きではなく自分でストーリー設計をしなきゃいけないということです。
積極的老後を考えることが何よりも問題解決につながるのかもしれません。
人それぞれの人生だから、「これが正解」なんてある訳ないし、優等生もいないわけです。
自分の好きなように生きればいいんじゃないでしょうか。
そして忘れていけない姑さんのお言葉・・・「大黒柱は大切にしないとダメよ。」夫は大切にしましょうね。