定年後はどうするか?このような未経験の事を考えるときは情報収集?勉強?シニアライフ老後参考書としては定年・還暦・高齢者をテーマにした小説も見逃せません。
日常生活の喜怒哀楽を描き、私たちにいろんなことを考えさせてくれる参考書であり楽しい娯楽作品です。前回、第8弾小説に学ぶ「すぐ死ぬんだから」に続き、垣谷美雨さんの「定年オヤジ改造計画」のご紹介です。
「定年オヤジ改造計画」 垣谷美雨
天海祐希さん主演で映画にもなった「老後の資金がありません」でおなじみの垣谷美雨さん。私と同年代の著者の作品はリアリティにあふれシニアライフの参考になる内容。身近な話題満載で親近感もあり楽しく読み進むことができる小説です。私も定年小説・ノウハウ本の第一弾で紹介させていただきました。
「定年オヤジ改造計画」の他、「あなたの人生、片づけます」「夫の墓には入りません」、「姑の遺品整理は、迷惑です」、「後悔病棟」などリアルなタイトルの作品が多くあり、どれも名作揃いです。
今回のタイトル「オヤジ改造計画」、何かやらされるのかと思いますが、オヤジ自らが多くの気付きを得て反省し変わっていく感動の物語。前半戦から怒涛の垣谷節がさく裂。少々誇張した内容にも感じますが、的は射ており同世代だけにうなずきと反省で胸が締め付けられます。
読後感としては自分の妻に対する態度や思いが変わったこと。口には出せていませんが「今までありがとう、これからもよろしくお願いします」という気持ちに素直になれました。同世代のオヤジ諸氏に読んでいただき、現実を学習していただきたい1冊です。
今回もネタバレにならない程度に、シニライフの参考となる心に残った名言の数々、名場面を切り取って、過去の振り返り、これからの人生について考えてみたいと思います。
夫源病
あ、「夫源病」と書くのか・・・・。
夫が原因の病気という意味らしいが、これに似た病気なら以前から知っている。p45
主人在宅ストレス症候群、夫が定年退職後、家にいると妻が病気になるという。思わず自分はどうなるんだろう?と自問自答してしまいました。
家と会社の往復で帰りも遅く、育児も家事もやらない夫、定年後は家にずっといるだけで相変わらず何もしない。小説ではかなり極端に書かれていますが、誰にでも思い当たる節があるかもしれません。
残業とか、付き合いとか、嘘ではありませんが飲みに行って楽しい思いをしたこともあるし、翌日は二日酔いで家族サービスは無しとか、反省のネタは尽きません。反省…。
同年代の男性諸氏は自己チェックは必要かもしれません。夫が原因で「夫源病」。嫌な響きですが、ここは素直になったほうが良さそうです。改善の余地はたくさんありそうです。
ところで、「妻源病」はないのだろうか?
解放感は多忙とセット
明日から土曜日だと思えば、解放感でいっぱいなのだろう。自分はもう二度と、その気持ちを味わうことはない。解放感は多忙とセットになっているからだ。
p87
私は、まだ働いていますがこの感覚はすごくよくわかります。テレワークが増えましたが、その分週末の帰りの通勤電車内の解放感は薄らぎました。また、再雇用だと重い責任もないので昔のような週末のはじけた解放感もなくなりました。
とことん寝てやる、遊びに行くぞ、昼から飲むぞ、溜まった録画を見てやる。今思えば、どれもたいした事ではないのですが金曜日の午後になると胸の高鳴りを覚えたものです。
あの感覚が無くなったんだ、と改めて思うとチョッピリ寂しい複雑な心境。解放感と多忙はセットという言葉が身に沁みます。身体も気力もあって元気なら、年とか定年とか関係なく活動しなければいけないと強く思わせてくれるお言葉でした。
息が苦しくなる
準備ができると、二人で車に乗って出かけた。気になったのは十志子が助手席でなく、後部座席に座ったことだ。今までにもそういうことが何回かあった。
p116
詳しくはネタバレになるので書きませんが、助手席に座ると「息が苦しくなると」という。この場面、常雄の心の葛藤が見事に描かれており、読んでいる男側としては胸が締め付けられる思い。
我が家も、後部座席が楽だからという理由で妻は2年ほど前から助手席には座らなくなりました。この件を読んでドキッとしましたが、これはないと思いたい。言い訳かもしれませんが、助手席が空いていると自分の荷物が置けるしスペースゆったり感がいいですから。
この小説は100P過ぎたあたりから、夫としての自信が益々なくなってくる感じで話は展開していきます。これがページをめくる推進力にもなっていますが。
男でも女でもない老人
「単なるジジイだよ。男でも女でもない老人だよ。枯れ木みたいなもんだよ。なのにアンタが気を遣ってること自体が気持ち悪いんだってばさ」
p275
息子の嫁に気を遣った話をした時に、実の娘から言われた一言。男としては、歳はとっても女性に対して気遣いはするものだと思うが、気持ち悪いと言われてしまう。
確かに、シニアの男性や女性が変に男感や女感を強くアピールするのは違和感があると思うし、過剰な若作りは「いたい」感じが否めないと思います。でも、異性に対する気遣いは最低限忘れないようにしたいもの、変な下心がなければ違和感感じないと思うのですが、これも個体差があるようですね。
自然体、簡単そうで一番難しいことだと思いますが、相手に違和感を感じさせないように努めることも必要ではないでしょうか。枝ぶりが良い枯れ木を目指します。
家政婦と勘違いしているんじゃないか
「家のことは何にもしないんですもん。まるで私のことを母親か家政婦と勘違いしてるんじゃないかって本気で疑いたくなりますよ。私のお陰で、和弘さんはいつまで経っても所帯じみないしカッコいいままですよ。会社でも女の子にモテるみたいですよ」
p312
息子の嫁からこのように告げられた。孫の面倒を見るようになり育児や家事の大変さが身に染みて分かった常雄。この嫁の言葉に感化され息子の再教育を決意します。至らない自分を反面教師として。
妻に家のことを任せているから、男は所帯じみないで、いつまでもカッコよくいられる。サラリーマンは外に出れば七人の敵がいるというのが伝家の宝刀。新しいスーツやブランド物のネクタイ買ったり、まめに美容院へいったり、深夜まで飲み歩いたり、好き勝手やっていたこともゼロではないと反省させられる方も多いのでは。
この300P近くに読み進むまで、ある意味イライラ感やもやもや感があったのですが、ここにきて情勢は大きく変わります。どんどん引き込まれていく感じは、垣谷さんの作家としての技量であり見事にやられたって感じ。あれだけ辛辣にオジサン攻め込まれていたのに、読後感はほっこりします。やっぱり、家族っていいなって。
冒頭でも書きましたが、同世代のオヤジ諸氏にはぜひ読んでいただきたい1冊でした。
次はいよいよ記念すべき第十弾となります。どんな作品を紹介できるのか楽しみです。