シニアライフ、小説に学ぶ豊かな老後 ・・・ 第2弾は 「孤舟」 渡辺淳一

シニアライフ、小説に学ぶ豊かな老後 ・・・ 第2弾は 「孤舟」 渡辺淳一 定年小説・ノウハウ本
photo by ゆう

本の要約は他のサイトにお任せするとして、こちらでは老後生活の学びや気づきになると思われるところをピックアップして考えてみたいと思います。

ゆう
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知らなかった、参考になる、思ったとおりだ、おっしゃる通り、それは考えておいた方がよさそうだな、私も準備しておこう、それはないでしょう、みんな同じような事考えているんだな・・・

私なりに印象的な部分を引用し、感じたことを述べさせていただければと思います。
充実のシニアライフを過ごすための、道しるべとなればうれしいです。

前回、第1弾小説に学ぶ「老後の資金がありません」に続き、渡辺淳一さんの「孤舟」のご紹介です。

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孤舟 渡辺淳一

医学博士でもある著者の渡辺淳一さん。
医療をテーマとした社会派作品の他「光と影」で63回直木賞を受賞されていますが

ゆう
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化身や失楽園、愛の流刑地などは映画化、テレビドラマ化されており恋愛小説のイメージが強い方も多いのではないでしょうか?

そんな渡辺さんは定年退職後の男の世界をどのように描いているのでしょう。
大手広告代理店の上席常務執行役員まで務めた主人公は関連会社の社長のポストを蹴って定年退職します。
この背景だけでも、この後の展開に興味がわきますよね。
さらに若い女性との喜怒哀楽が絡んでくるわけですから、読み始めたらとまりません。

単なる読み物、小説としての面白さだけでなく退職後の人生をどう過ごすのか、夫婦や親子の問題、そして孤独というテーマは深く考えさせられます。

そしてタイトルの「孤舟」、なんとも寂しげな哀愁漂う響きです。
ぽつんと浮かぶたった一つの舟。松本清張のドラマ化された「白い闇 十和田湖奥入瀬殺人事件」では、霧の十和田湖にぽつんと一つ浮かぶボートが揺れているという印象的なシーンがありました。
たった二つの漢字ですが、思いを巡らせることが出来るのが言葉のすごいところですね。

話がそれてしまいましたが、シニア世代にとって「孤独」という大きな社会問題は、避けては通れない心配事です。我々に希望を与えてくれるストーリー展開を期待して読み進めることにしましょう。

一艘の舟

老後における夫婦喧嘩の考察

 「あなたは会社にいた頃と、少しも変わろうとしていないじゃありませんか。相変らず威張って、家族を召使のようにつかって・・・」

「そうか、あの頃は実入りがよかったから我慢できたが、いまはもう金も持ってこない男のいうことなど、ききたくないというわけだな」

p42

いきなり現実的な夫婦の会話ということになりますが想像に難くありません。
特にネタ(お金、性格や態度、むかしの事)がよくないですよね。

威張っているつもりもないし、金を持ってこない男のいうことなどききたくない、なんて本気では思っていないはずです。口喧嘩というものは売り言葉に買い言葉でエスカレートしちゃうものですよね。
私も経験があります、反省もあります。みなさんはいかがですか。

威一郎(旦那)は絵に描いたように食事を途中でやめてこの後、家を出て一人飲みに行く展開となりますが、誰しも経験があるのではないでしょうか。
老後生活においては、このパターンはお互いのため絶対よくありませんね。
感情的にならないでお互い譲歩すべきところは我慢しなければなりません。

ゆう
ゆう

そんなこと“分かってます”という声が聞こえてきそうですね。
分かっていても出来ないのが人間、我慢は客観的に意識しないと難しいものです。

退職後の男は家庭内では新人と割り切って謙虚に奥様の言うことに耳を傾けることが大切です。
と言いつつも、2年後の我が家はどうなっているか自信はありませんが。

あのとき、違う道を選んでいれば・・・

あのとき耐えて大阪に行っていれば、まだまだ仕事をしていられたはずである。だが一日考えて、威一郎はきっぱりと大阪行きを断った。いくら社長ポストといっても、大阪の、しかもあの程度の子会社の社長になるのは屈辱的だった。

p53

これはケンカして家を出た後、街のレストランでひとり安ワインを飲みながら過去を回想するシーンです。
未練たらたらの何とも情けない男のつぶやきで悲しくなりますが、同情というか何かホッとする気持ちにもなりました。誰もが似たような問題を抱えているのではないでしょうか。

ワイングラス

大きな会社で偉くなると同期や派閥の人間関係も複雑に絡んでくるし、プライドも邪魔して簡単には進めないんですね。過去の栄光と屈辱は頭から離れないものです。

私だったら子会社とはいえ、社長ポストだったら喜んでお受けすると思いますが大企業の役員の気持ちは分かるはずもないですね。このシーンを贅沢な選択と悩みだ、と思える自分は幸せかもしれません。

ゆう
ゆう

問題は違うし人それぞれだと思いますが、過去の決断を悔やむことはあります。
それが歳と共に思い出す時が多くなっている気もします。

あの時言わなければ・・あの時言っとけば・・など、どうしようもない事と分かっていても頭の中をその時のシーンがぐるぐる絵になって回ることありませんか?考えてもしょうがないのに、男は悲しい生き物です。

損得で考えてしまうサラリーマン人生の習慣

サークルで学んだことを、すぐ今後のプラスになるか否かと考えるから、やる気になれないのである。いまの自分にとって得か損かといった視点で考えず、やってみて楽しいか否かで選ぶべきではないか。

p73

これは老後の暇つぶしの為、カルチャーサークルのメニューを物色しているシーンなのですが、身につまされる思いです。サラリーマン人生は学び、遊び、人付き合い、すべて業務上の損得を意識して過ごしてきたような気がしています。

急に自分が楽しむための選択といわれても決められない気持ちは分かります。
定年を機にこの考え方を捨てなくてはいけません。
長年染みついた感覚、自分の時間を提供するのだから何らかの収入に繋げたいという姑息な考え方に終止符を打つためにも、今まで背負ってきた荷物は全ておろしましょう。

老後は趣味を持てといわれます。時間とお金を使ってゴルフ、面子を集めて麻雀、サークル活動、やはりピンときません。競争とか比べるとかの環境からは離れたいものです。
ですからおひとり様で、ということになるのでしょうか。
やはり孤独が居心地がいいのでしょうか。
人に教えたり、教わったりというのも気乗りしませんし、趣味については大きな課題です。

孤独感という病

「もう世間に必要とされていない。そして語り合える友人もいない。その孤独感が病気を誘い出すのです」と記されている。さらに「悶々として楽しめない。その憂鬱な精神状態が、血の巡りを悪くして病気を生みだすのです」という

p195

これは威一郎が何気なく1週間前に買ったけど読む気にならなかった「老いの過ごし方」という本を読んでいるシーンです。このように気が滅入ってしまう内容はこの手の本によくある事で、そんなに気にすることもないと思うのですが、威一郎は妙に納得し心配になり急に体を動かしてみせます。
男の気弱で単純な一面が見え隠れする場面で和みました。

ゆう
ゆう

権威あるノウハウ本に自分に当てはまる悪い事が書いてあると気になるものです。
私はこの手の本を読み漁りこのブログに書き留めている訳ですが考え方次第だと思っています。

当事者ではあるのですが、俯瞰的に自分もまわりも見るトレーニングを重ねれば「老いの過ごし方」については多くの知恵がついてきますし、楽しくなってきます。

ただ、小説となると難しくストーリーにどっぷりと浸かっちゃいますね。
作家さんの力はすごいです。

女性の存在はいつも男性のエネルギーなのか

そのまま何げなく画面を見ているうちに“出会い”という項目に目が留まる。「なんだろう」不思議に思ってクリックしてみると、手をつないだ男女二人の絵が現れ、その横に「運命の出会い 検索」とある。

p224

考えてみるとこんなところで女性と逢うのは初めてである。現役の頃は、ホテルでデートをするような大胆なことは、する気もなかったし、したこともない。・・中略
「俺も、けっこうやれるんだ・・・」

p236

そうです、この二つの引用からお察し頂ければお分かりのとおり渡辺淳一さんならではの少々重めの男と女の物語のはじまりです。

ゆう
ゆう

なるほど・・えっ・・おいおい・・まてまて・・そこは違うだろ・・、勝手な想像や意見が思わず出てくるような絶妙なテンポが秀逸です。

当然、思い通りに簡単には進みませんが、少しづつ二人の関係は進展していきます。
この展開と心情は実体験がないと書けないだろうな~なんて少し羨ましい気持ちを抱きながら、リアルで細かな描き方に魅了され引き込まれていきます。

カップル

下心見え見えなのですが、憎めない威一郎のキャラが冴えわたります。ハラハラドキドキな内容については読んでのお楽しみということで、ここではシニアの恋愛について少し考えてみましょう。

ゆう
ゆう

恋愛経験は人によって違うと思いますが、恋愛に対するあこがれや恋愛のすばらしさについては世代を超えて共通のものがあります。人を好きになることに年齢は関係ないと思います。

では、シニアは恋愛に何を求めているのでしょう。
今回のテーマにも関係があると思うのですが、背景は孤独感が大きいと思います。
一緒に美味しいもの食べたり、お話したりと繋がりが安心感と満足感を生んでくれる気がしています。
話をきいてくれるだけでも、いっしょに笑えるだけでもありがたく感じるのではないでしょうか。
歳の差があろうがなかろうが、価値観が同じなら話して楽しいし素敵な時間です。
エネルギーがわいてきます。気持ちぐらいは若い時のままというのも悪くありません。

団塊の世代から学んだこと

団塊の世代、世代人口が多く高度経済成長期を企業戦士として戦ってこられた方々で、競争意識が強くて少々強引、馬力がある、押しが強いなどのイメージがあるのではないでしょうか。

主人公の威一郎も団塊の世代らしく、わがまま、偉そう、亭主関白、そしてプライドが高く負けず嫌い、妻子から距離をおかれてしまった寂しい男として少々滑稽に描かれています。これは小説の世界ですが現実は?

ゆう
ゆう

団塊の世代と呼ばれる方々は、私の年代より10歳ほど先輩にあたります。
直属の上司であり、社会人としての心得や仕事の進め方など多くの事を教わりました。
感謝の気持ちは今も変わりません。

確かに、やり方に問題があったかもしれませんし、今の世代の方が聞いたらビックリされるようなことも多いかもしれません。でも、世間で言われるほど根性論ばかりではなかったと思いますよ。

先輩たちの名言(迷言?)

  • 先に帰るな
  • 酒は自分の金で飲め
  • 頭じゃなく身体で考えろ
  • 考える前に動け
  • 先手必勝
  • 金は貯めるな、使うためにある
  • 俺についてくれば間違いない
  • 人を待たせるな
  • 俺が若いころは・・と長い話
  • 理屈は要らん、根性出せ
  • 自分で考えろ

などなど、少々オーバーに書かせて頂きましたがこんな感じだったと思います。
一番心に残っているのは

ゆう<br><br><br>
ゆう


「私にしてもらったことは私には返さなくていい、後輩にしてあげなさい」
「今日おごった酒は、今度はお前が後輩におごるんだぞ」のお言葉です。

居酒屋

これだけはキッチリと踏襲させて頂きました。
無理難題も多かったですが面倒見がいい先輩が多く、よく飲みに連れて行ってもらいましたし、ゴチになりました。領収書の時もありましたが、自腹でおごってもらったことも数知れずです。

飲み会の席は話も長く、自慢話や説教ばかりで大変でしたが、勉強になることもたくさんありました。
また、当時カラオケはボックスではなくスナックです。知らない人の前で歌うわけですから度胸もプレゼン能力も身に付いたわけです。基礎的な学習は昼の会議室、生きる術は夜の会議室で学びました。
人に対する思いやり、お客様にも同期にも後輩にも気遣いが出来る素晴らしい世代だったと思っています。


しかし、時代は変わって・・・

  • 社是や理念の唱和
  • 朝礼や終礼の習慣
  • 日報や月報など報連相
  • 飲みにケーション
  • 慰安旅行

こんな昭和の習慣はあまり意味がないとされていますね。
確かに、カスタマイズは必要だと思いますが全否定はないと思います。
いいところは引き継いでいってほしいものです。

テレワーク、リモートワークが常態化する中、ジョブ型と呼ばれる雇用形態、働き方が注目されていますね。
人に仕事が付くのではなく、仕事に人が付くという言われ方もしています。
今まで以上に仕事内容に必要なスキルが問われる訳ですから、採用側も働く側にとっても条件が明確で人材の流動化、専門職の育成、人材確保という意味で、いい考え方だと思います。

しかし、すべてこの考え方いいのでしょうか。
優秀で自分で努力して向上心もありスペシャリストとしてやっていける人たちにとっては問題ないと思います。我々のようなメンバーシップ型雇用で、ジョブローテーションしながら自分のスキルに合った仕事を見つけていくという働き方にもメリットはあるはずです。過去にこだわるわけではありませんが、会社の特性や業種業態に合わせたバランス感覚は必要ではないでしょうか。

威一郎の生き方、考え方をきっかけとして、多くの社会問題を再認識できたこと、老後の心得を得られたこと、そして何より老後は結構楽しく出来ることが感じられてよかったです。
今回は紹介できませんでしたが、作品中ではコタロウという愛犬がいい役を演じています。
ぜひ、全編お楽しみください。

最後まで長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

Bitly

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