将来について語るとき、若かりし頃は夢と希望、そして期待にあふれていました。
しかし、老後となるといささか事情が違います。
将来について語るとき、そこには不安しかありません。なぜなら情報が少ないからです。
豊かな老後を暮らすためにはどうすればいいか?
お金、仕事、親の介護、健康維持、趣味、人間関係、老いらくの恋、情報収集範囲は幅広く未知の世界への心構えが必要です。
こんな情報をストーリーで楽しめる定年小説というジャンルがあります。
フィクションとは言え、有名作家さんが描く物語はリアリティーに満ちており老後の参考になる事が盛りだくさん。ノウハウ本とは違い、日常生活をストーリーとして描き、そこに繰り広げられる喜怒哀楽の風景から老後の課題が見えてきます。
楽しみながら老後の生活を垣間見ることが出きます。刺激がもらえます。
人間関係を見つめなおすことで新たな発見もあります。
自分が考える老後と照らし合わせることもできます。
それぞれのストーリーをヒントに自分の老後をどのように描くのか、どのような生活を目指すのか、今から準備すれば豊かな未来が待っているはず。
未来予想図を描くのはあなた自身です。
今までシリーズ第二弾として5冊紹介してきました。
こちらでまとめ記事として紹介していきます。
興味がある小説の詳細については個々のリンクから本編をご参照ください。
「九十歳。何がめでたい」 佐藤愛子
佐藤愛子さんは、1969年に「戦いすんで日が暮れて」で直木賞を受賞、2023年に満100歳の誕生日を迎えられました。2016年に「九十歳。何がめでたい」、2021年に「九十八歳。戦いやまず日は暮れず」を出版。「2024年に「九十歳。何がめでたい」が草笛光子さん主演で映画化が決定、6月21日全国公開されました。
私は今年65歳、いよいよ年金受給開始の新参者。九十歳といわれても、まだピンときませんが人生百年時代といわれている昨今、この自虐的なタイトルは非常に気になります。
佐藤さんの豊富な人生の実体験から、理不尽な話、腹立たしい話や人情噺が面白おかしく繰り出されます。ただ面白いだけじゃなく、今の社会に対して考えさせられるヒントが盛りだくさん、何と言っても百歳ですから。
目次
- 来るか?日本人総アホ時代
- 覚悟のしかた
- いちいちうるせえ
- おしまいの言葉
来るか?日本人総アホ時代
「文明の進歩」は我々の暮らしを豊かにしたかもしれないが、それと引き替えにかって我々の中にあった謙虚さや感謝や我慢などの精神力を摩滅させて行く。
p22
スマホ、新幹線「のぞみ」の東京と大阪間3分アップ、洗濯についての今昔などを例に話が展開。自分の体験談を通して、進歩の意義、年寄りが敬意を払われなくなったことを嘆きます。
私の世代でも、中学生の頃から生活の利便性が格段に上がり衣・食・住の全てが生活必需品のレベルを超え、好みが重視される豊かな世の中になりました。そして、気が付けば頭と身体をフル稼働させて対処していた物事が、スマホ一つで掌の中で解決してしまう時代になっています。
この「来るか?日本人総アホ時代」では思い通りにいかないことに対して、イライラすることが増えた自分。何でも当たり前と思っている、我儘な自分がいることに気付かされました。佐藤さんのおっしゃる通り「必要なのは人間の精神力」なのかもしれません。反省です。
「老害の人」内館牧子
著者の内館さんはOL生活を経て1988年より脚本家、作家の道を歩まれています。朝ドラ「ひらり」の原作脚本、大河ドラマ「毛利元就」のオリジナル脚本など担当されていました。
高齢者小説と呼ばれる、以前ご紹介した「終わった人」、「すぐ死ぬんだから」「今度生まれたら」に続く第4弾がこちら「老害の人」となります。
老害という言葉、耳障りがいい言葉ではありませんが、すでに市民権を得ており私も気にする年になってきました。小説内では孫自慢、元気自慢に病気自慢、趣味自慢、昔話に同じ話の繰り返しと、やりたい放題で笑うしかありませんが、身近にある話ばかりなので、他人事とは言っていられません。
目次
- 引退したのに肩書?
- 人の話を聞かない人たち
- 若い頃はギラギラしていたのに
- 人は毒か薬にならにゃいかん
- ドラマのエンディング曲
引退したのに肩書?
「肩書は『経営戦略室長』にしてくれ」
p14
社長の座を譲った福太郎だが、会社に一部屋残してもらうことに。気を利かせた新社長、肩書は顧問か相談役、名刺も作りましょうかと言ってくれる。福太郎はこの肩書にダメ出し、そして出たこの発言。顧問とか相談役という肩書は終わったジジイが就く役職だと言い放った。
経営戦略室の設置は特に大企業で組織された戦略策定の花形部署。中小企業、特にオーナー企業にはあまり存在しない部署だと思います。社長の頭の中が経営戦略室という会社が多いのではないでしょうか?ですから、この段階で事実上福太郎は引退して社長を譲ったという気持ちには???です、やる気満々。悪気はないのでしょうが。
私世代の若い頃には無かったこの部署、1980年後半から90年代ごろに出来た部署だと思います。誰しもこの「経営戦略室長」という肩書と言葉の響きに憧れがあったのではないでしょうか?
社長を引退して肩書が経営戦略室長、まさしく老害かもしれませんね。
「すぐ死ぬんだから」 内館牧子
著者の内館さんについては前回の第7弾でご紹介させて頂きましたので、そちらをご参照ください。
高齢者小説と呼ばれる、内館さんの4作品「終わった人」「すぐ死ぬんだから」「今度生まれたら」「老害の人」から、今回は3つ目のご紹介となります。
ドキッとするタイトル、最初からググっと引き寄せられるストレートなご指摘、今回も歯に衣着せぬ心地よい響きで、ページがどんどん進みます。
納得、共感できるご指摘は自分や周りの人たちと比較して考えさせられますし、何より元気がもらえるところがいいですね。高齢者に前期も後期も無いと思わせてくれます。
そして、ストーリーは途中で思わぬ展開へ。こうなると一気読みモードで、やめられなくなりました。
目次
- 若く見られることが大事
- 年を取ることは退化
- 使うべきことがあるだろう
- ババくささは伝染る
- 楽しまなければ損
- NHK プレミアムドラマ
若く見られることが大事
六十代に入ったら、男も女も絶対に実年齢に見られてはならない。
~中略~
絶対に七十八には見えない。自身がある。それだけの努力はしているし、気合いも入れている。
p2
年相応という言葉がありますが、冒頭から「実年齢に見られてはならない」とグサッと刺さるフレーズが登場します。考えてみると、年相応と言われても基準があるわけではありません。若く見える人、老けて見える人、人それぞれ。
若く見える人は、見た目だけではなく話題も豊富で話し方も元気で好感が持てる方が多い気がします。外見だけじゃなく中身も魅力的な方が多いですね。天性ではなく努力の賜物なのでしょう。
本書にあるとおり、努力・自身・気合が必要なのかも。気力、体力、身だしなみ、ファッションにも気を使って豊かな老後を送りたいですね。ハードルは高いですが、すぐ死ぬんだからを言い訳にしないように心がけます。
「定年オヤジ改造計画」 垣谷美雨
天海祐希さん主演で映画にもなった「老後の資金がありません」でおなじみの垣谷美雨さん。私と同年代の著者の作品はリアリティにあふれシニアライフの参考になる内容。身近な話題満載で親近感もあり楽しく読み進むことができる小説です。私も定年小説・ノウハウ本の第一弾で紹介させていただきました。
「定年オヤジ改造計画」の他、「あなたの人生、片づけます」「夫の墓には入りません」、「姑の遺品整理は、迷惑です」、「後悔病棟」などリアルなタイトルの作品が多くあり、どれも名作揃いです。
今回のタイトル「オヤジ改造計画」、何かやらされるのかと思いますが、オヤジ自らが多くの気付きを得て反省し変わっていく感動の物語。前半戦から怒涛の垣谷節がさく裂。少々誇張した内容にも感じますが、的は射ており同世代だけにうなずきと反省で胸が締め付けられます。
目次
- 夫源病
- 解放感は多忙とセット
- 息が苦しくなる
- 男でも女でもない老人
- 家政婦と勘違いしているんじゃないか
夫源病
あ、「夫源病」と書くのか・・・・。
夫が原因の病気という意味らしいが、これに似た病気なら以前から知っている。p45
主人在宅ストレス症候群、夫が定年退職後、家にいると妻が病気になるという。思わず自分はどうなるんだろう?と自問自答してしまいました。
家と会社の往復で帰りも遅く、育児も家事もやらない夫、定年後は家にずっといるだけで相変わらず何もしない。小説ではかなり極端に書かれていますが、誰にでも思い当たる節があるかもしれません。
残業とか、付き合いとか、嘘ではありませんが飲みに行って楽しい思いをしたこともあるし、翌日は二日酔いで家族サービスは無しとか、反省のネタは尽きません。反省…。
同年代の男性諸氏は自己チェックは必要かもしれません。夫が原因で「夫源病」。嫌な響きですが、ここは素直になったほうが良さそうです。改善の余地はたくさんありそうです。
ところで、「妻源病」はないのだろうか?
「喫茶おじさん」 原田ひ香
著者の原田さんは「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。著書に「三千円の使いかた」「喫茶おじさん」「そのマンション、終の住処でいいですか?」「彼女の家計簿」「東京ロンダリング」などがあります。
「三千円の使いかた」は節約家族小説とよばれ、フジテレビでドラマ化もされて大ブレイク。2022年上半期のベストセラーランキング、オリコン・トーハン・日販、三冠達成されている人気作品となりました。
今回ご紹介する「喫茶おじさん」は食に関する著書も多い原田さんの2023年の小説。純喫茶店好きの早期退職した57歳のおじさん、松尾純一郎の物語。喫茶店めぐりが好きなシニアの私には大変興味深く、また老後生活の勉強にもなるこの作品。
実名は伏せてありますが、実在する有名な喫茶店や名物メニューが詳しく紹介されているところも魅力。知ってる店があると2倍楽しめます。(最後に私の見解でお店を並べてみました)
目次
- 趣味がなかった 一月 正午の東銀座
- 再就職の面接 二月 午後二時の新橋
- 職安で 三月 午後三時の学芸大学
- 老後の不安 八月 午後一時の新橋
- 同僚との比較 十月 夜十時の池袋
- 自分を振り返る 十月 夜十時の池袋
- 登場する魅力あふれる喫茶店24店舗
趣味がなかった 一月 正午の東銀座
これまでこれといった趣味はなかった。現役時代は休日は疲れ切って寝てばかりいたし、起きれば妻の「ちょっと亜理紗を見ていてちょうだいよ」の声に追いかけられていた。
p16
銀座の喫茶店でコーヒーを飲みながら純一郎が過去を振り返り、純喫茶巡りを趣味にしようと決めるシーン。ゴルフは仕事の付き合いが絡んでいるしスポーツは苦手、囲碁将棋は下手で賭け事は嫌い、「勝ちたい」と思ったことがないという描写、こんなサラリーマン沢山いるんですよね、リアリティーがあります。
仕事と家庭の問題をクリアして、自分の好きな時間を楽しんできたビジネスマンはどれくらいいるのでしょう?私もなんとなく生きてきたわけではないけれど、改めて自分を主語にして考えたとき、本当に楽しめた付き合いの時間は少ないかもしれません。同調圧力が常にあったのかも。
夢中になって打ち込めた趣味と言えるもの、何もない自分がここにもいます。考える時間と気持ちの余裕がなかったと言えば、言い訳になりますが・・・。色々やってはみたものの、どれも中途半端な結果に。私も、喫茶店巡りでも始めて見るか、居酒屋巡りより財布にも身体にも優しそうですし。
シニアライフ 小説に学ぶ豊かな老後 5選 ・・・ まとめはこちら ↓
その1では下記5冊を紹介しています。その2と合わせて計10冊、これで老後対策はokです。
目次
・老後の資金がありません 垣谷美雨
・孤舟 渡辺淳一
・終わった人 内館牧子
・おもかげ 浅田次郎
・55歳からのハローライフ 村上 龍