将来について語るとき、若かりし頃は夢と希望、そして期待にあふれていました。
しかし、老後となるといささか事情が違います。
将来について語るとき、そこには不安しかありません。なぜなら情報が少ないからです。
豊かな老後を暮らすためにはどうすればいいか?
お金、仕事、親の介護、健康維持、趣味、人間関係、老いらくの恋、など情報収集範囲は幅広く未知の世界への心構えが必要です。
こんな情報をストーリーで楽しめる定年小説というジャンルがあります。
フィクションとは言え、有名作家さんが描く物語はリアリティーに満ちており老後の参考になる事が盛りだくさん。ノウハウ本とは違い、日常生活をストーリーとして描き、そこに繰り広げられる喜怒哀楽の風景から老後の課題が見えてきます。
楽しみながら老後の生活を垣間見ることが出きます。刺激がもらえます。
人間関係を見つめなおすことで新たな発見もあります。
自分が考える老後と照らし合わせることもできます。
それぞれのストーリーをヒントに自分の老後をどのように描くのか、どのような生活を目指すのか、今から準備すれば豊かな未来が待っているはず。
未来予想図を描くのはあなた自身です。
今までシリーズとして5冊紹介してきました。
こちらでまとめ記事として紹介していきます。
興味がある小説の詳細については個々のリンクから本編をご参照ください。
老後の資金がありません 垣谷美雨
メディアで映画のタイトル連発のコマーシャル露出も多く、名前を知らない方は少ないのではないでしょうか?他にも「定年オヤジ改造計画」、「夫の墓には入りません」、「姑の遺品整理は、迷惑です」などリアルなタイトルの作品が多くあります。
垣谷さんは私と同年代であることもあり内容が身近な話題で興味もひとしお。
還暦や老後を題材にした人間模様を描いた小説は世に多く存在していますが「老後に資金がありません」という誰もが気にしているキャッチ―なフレーズが心に響きますね。
夫婦、舅と姑、娘と息子、兄弟、親戚、友人という関係がどうなっていくか?お金が絡むとより複雑になっていく人間模様の展開が読者をひきつけていきます。また、社会風刺も鋭く切り取られており現代社会の暗部を考えさせられる側面もあります。
目 次
- 職場での不平等な現実
- 見栄がじゃまする葬儀の準備
- セミナー聞いて分かったつもり
- 老いても大事な自己肯定感と存在感
- 楽しい老後が平等に待っています
孤舟 渡辺淳一
医学博士でもある著者の渡辺淳一さん。
医療をテーマとした社会派作品の他「光と影」で63回直木賞を受賞されていますが
化身や失楽園、愛の流刑地などは映画化、テレビドラマ化されており恋愛小説のイメージが強い方も多いのではないでしょうか?
そんな渡辺さんは定年退職後の男の世界をどのように描いているのでしょう。
大手広告代理店の上席常務執行役員まで務めた主人公は関連会社の社長のポストを蹴って定年退職します。この背景だけでも、この後の展開に興味がわきますよね。
さらに若い女性との喜怒哀楽が絡んでくるわけですから、読み始めたらとまりません。
単なる読み物、小説としての面白さだけでなく退職後の人生をどう過ごすのか、夫婦や親子の問題、そして孤独というテーマは深く考えさせられます。
目 次
- 老後における夫婦喧嘩の考察
- あのとき、違う道を選んでいれば・・・
- 損得で考えてしまうサラリーマン人生の習慣
- 孤独感という病
- 女性の存在はいつも男性のエネルギーなのか
終わった人 内館牧子
著者の内館さんはOL生活を経て1988年より脚本家、作家の道を歩まれています。
朝ドラ「ひらり」の原作脚本、大河ドラマ「毛利元就」のオリジナル脚本など担当されていました。
「ひらり」は主演の石田ひかりさんやドリカムの「晴れたらいいね」の主題歌で覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。もう30年前の話なんですね。
また、横綱審議委員会審議委員をつとめられ、好角家としても知られています。
こんな著者が、東大卒、メガバンク、役員手前、子会社専務という波乱万丈男の定年後をどのように描くのか。
前回の孤舟は渡辺淳一さんの男性目線からみた定年後の世界。
今回は内館さんの女性目線からみた定年後の男性。捉え方の違いを比べてみるのも楽しみ方です。
目 次
- 「生前葬」「散り際千金」「散る桜 残る桜も 散る桜」
- 俺の妻にならなければ・・・
- スーツが息をしていなかった
- まだ成仏していないんだよ
- 「終わった人」になると横一列
おもかげ 浅田次郎
浅田次郎さんは日本ペンクラブの元会長、現在も直木賞の選考委員をされている著名な小説家。
ご自身の受賞歴も多く「鉄道員」(ぽっぽや)は1997年第117回直木賞を受賞、高倉健さん主演で1999年映画化され大ヒットとなりました。他にも地下鉄に乗って、壬生義士伝、プリズンホテルなど映画やテレビドラマ化された作品も数多くあります。
現代小説では「平成の泣かせ屋」の異名があるほど、人情味あふれる作風が特徴。
そんな著者が描く定年送別会の日に倒れた男の世界は?泣かせていただきましょう。
物語は定年退職した主人公の竹脇正一が送別会帰りに地下鉄で倒れ病院へ搬送、集中治療室へ。
意識が戻らず生死の境を彷徨っている正一、あるはずのない幽体離脱?のような体験の中、老女とのディナー、謎の女性と夏の海岸を歩いたり、隣のベッドで意識不明の老人と銭湯でのんびり手足をのばしたりと、不思議な体験が続いていきます。
過去の思いと体験、現実世界がパラレルワールドで展開。
会社の同期や幼なじみ、妻と娘そして娘婿らの正一への思いも描かれて物語は進んでいきます。
目まぐるしく変わる場面と登場人物の視点、そして謎が明かされるクライマックスへ。
浅田節炸裂の涙なしでは語れないストーリー展開、目頭が熱くなる物語です。
目 次
- 奇特な若者に席を譲られたら
- 学生時代は生活が大変だった
- エリートもろくでなしも、死ぬときァ一緒
- ポンコツのセダンからスポーツカーに乗り換え
- 会社員は外出したら最後
55歳からのハローライフ 村上 龍
村上龍さんは、まだ在学中の1976年に第75回芥川賞を「限りなく透明に近いブルー」で受賞、その他多くの受賞歴をお持ちの小説家。カンブリア宮殿のホスト役として、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
まだ高校生だった私には「限りなく透明に近いブルー」は衝撃的。
あまりにも違う世界、知らない世界に胸が高まり大人への期待と不安に包まれました。
村上さんの作品はオシャレな都会的においを感じ憧れもあって影響が大きかったです。
福生には今でも時々出かけ、ジーンズにTシャツでベースサイドストリートを楽しみながら当時の感傷にひたって街歩きすることも。
あれから38年後の2014年に発売の「55歳からのハローライフ」、同じ村上龍作品でも、あの退廃的な若者の物語から時は流れて、今は還暦近いシニアの苦悩という物語を読んでいる自分。
40年近い時の流れをひしひしと感じます。
定年小説といえば、家族、お金、仕事、老いらくの恋が定番、この物語にも老後に向けてのペーソスが。
しかし、村上龍が描くリアリティーの世界は少々違いました。
ストレートな描写からはストーリーの裏側にひそんでいるもの、勇気がもらえる何か力強さを感じます。
人生やり直し的ストーリー、最後は夢と希望に包まれます。
還暦過ぎても人生まだまだ捨てたもんじゃない。そんな気持ちにさせてくれます。
目 次
- 結婚相談所・・・後悔と共に生きる人生が最も恐ろしい。
- 空を飛ぶ夢をもう一度・・・生きてさえいれば、またいつか
- キャンピングカー・・・俺にとっての「外」とはいったいどこに
- ペットロス・・・生きようという姿を示すだけで
- トラベルヘルパー・・・このどうしようもない孤独感
- 5つの物語と5つの飲み物
紅茶(アールグレイ)・・・結婚相談所
ミネラルウォーター(パラディーゾ)・・・空を飛ぶ夢をもう一度
自ら淹れるレギュラーコーヒー・・・キャンピングカー
中国茶(プーアール茶)・・・ペットロス
日本茶(狭山茶)・・・トラベルヘルパー
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「九十歳。何がめでたい」「老害の人」「すぐ死ぬんだから」「定年オヤジ改造計画」「喫茶おじさん」