前回その12では中華街の保昌と熊猫飯店をご紹介しました。
今回は池波正太郎さんを偲んで、横浜に来た時に立ち寄られていた「清風楼」「蓬莱閣」「徳記」をエッセイに紹介されている文章の引用も併せてご紹介します。
町中華のラーメンやチャーハン、餃子などは食べなれていますが、本格的な中国料理となると種類も多く何を頼んでいいのかよく分かりませんよね。そこで登場するのがランチ。
中華街はお店が日替わりでシニアにもピッタリな本格的中国料理が多彩です。
知らない料理を体験できる楽しみと種類が多い中華の知見が深まるという魅力的なランチタイム。
土日祭日とは違い平日の中華街は違った風景、気軽にお得な中華を楽しみます。
池波正太郎さんは戦後を代表する時代小説、歴史小説家です。
「鬼平犯科帳」「剣客商売」をはじめ仕掛け人シリーズなどお茶の間の人気番組も多数あります。
中村吉右衛門さん演ずる火付盗賊改方「長谷川平蔵」はかっこよかったですね~、大好きでした。
エンディング曲のジプシー・キングスの「インスピレーション」も名曲です。
食通としても知られ、美味しいものを探し求めて日本全国で多くのお店を訪ね歩いていらっしゃいます。
わがふるさと富山県には池波さんが「父祖の地」として訪れていた縁で、彫刻の街「井波」に池波正太郎ふれあい館があります。日本一の彫刻技術を誇るといわれている見事な井波彫刻が随所にみられる瑞泉寺もあります。機会があれば、ぜひ訪ねてみてください。
今回ご紹介する中華街のお店が紹介されているのは3冊。
・「食卓の情景」発行は昭和48年(文庫:昭和55年)
・「散歩のとき何か食べたくなって」発行は昭和52年(文庫:昭和56年)
・「むかしの味」発行は昭和59年(文庫:昭和63年)
40年以上前の発行となりますが、お店を訪ねているのは更にその前ということになります。
今も、そのお店が続いていること自体素晴らしいことですね。
代替わりして、お店も味も「変わったこと」「変わらないこと」があるでしょう。
それら歴史もかみしめながら、お店を訪ねてみたいと思います。
※画像はクリックすると拡大でご覧いただけます。
清風楼
大通りから市場通りに入り関帝廟通りに出てすぐ。シウマイの赤い看板が。
ウインドウにはお土産用シウマイ案内とともに池波正太郎さんの記事紹介が飾られています。
2009年の朝日新聞夕刊の記事”池波正太郎の食”にうなる、読者が決める「日本一」は?で清風楼さんは791人の投票を得て第5位にランキングされています。(ウインドウ内の張り出し記事)
昭和20年創業の清風楼さん、こちらは人気店なので行列は必至、席も相席となります。
人気は当然シウマイ、そして炒飯、ヤキメシです。シウマイは一皿4個入り540円、炒飯は並が880円、上はエビ入りで1500円、特はカニ、エビ入りで2000円となっています。
私が訪ねたのは月曜日の13時少し前ということもあり、お店は空いててすぐに入れました。
空席はありますが、ルールにのっとり相席でご案内です。
定番のチャーハンとシューマイを注文。880円+540円で1,420円となります。
チャーハンとシューマイがほぼ同時で運ばれてきました。
テーブルに品物を置いたと同時に、撮影は禁止されてます。と
チャーハンとシューマイは撮影OKでしたよね?と確認したところ、全て撮影禁止になったとの事でした。
マスコミが騒ぎすぎたせいでしょうか、お店の気持ちも分かりますが残念です。
わざわざ遠方から、撮影も目的で来た方はがっくりでしょうね。
ということで、ヤキメシとシウマイの写真は無しとなりました。写真目的で来店予定の方はご注意ください。
どんぶりチャーハンは(ネット等で沢山写真がありますのでご興味ある方はご参照ください)頑張ったのですが1/3くらい残しちゃいました。申し訳ありません。20代の頃だったら完食だったかな。
シューマイ4個はペロリと美味しく頂きました。
シウマイの皮は薄く、肉がギュッと詰まっており普段食べているシューマイとは食感から違います。
何もつけなくてもおいしくいただけますが、ビールが欲しくなるランチには禁断のシウマイでした。
本で紹介されてた頃から時は流れて、お店の雰囲気も客層も変わったことでしょう。
店内は昔ながらの素朴な感じが残っており、ゆっくり自分ペースで味わうのがこの店にはお似合い。
清風楼は終戦の年の十一月に開店したという。
むかしの味 p145
昨年に死去した陳治安さんが初代の店主で、現当主の吉田さん(日本に帰化)は二代目だ。
ここの焼売は豚肉と貝柱と長ネギのみを使う。
そして、化学調味料や胡椒などをいっさい使わぬ。
それは、先代からうけつがれた調理の方法なのだろうし、長谷川師に、むかしの味を想い起こさせた所以なのだろう。
わが師・長谷川伸が、
食卓の情景 p231
「むかし、ぼくがハマで労働やってたとき、南京町へ行ってラウメンを食べるんだが・・・少し金があると、シューマイを食べる」
——
裏通りの〔清風楼〕でシューマイをつまんだりするのが好きだ。同じ裏通りの〔徳記〕のラーメンもよい。これなど恩師に食べさせたら「ラウメンだ」と、いうのではあるまいか。
蓬莱閣
上海路と関帝廟通りの交差する角、大きな餃子のオブジェが蓬莱閣の目印。
入口横の「王」おばあちゃんのポスターと共に、この店の餃子へのこだわりと人気が伝わってきます。
歴史も古く創業は1959年、3代続く老舗。お店の看板も年を経ていい味わい。
赤は少しくすんだくらいの方が落ち着きがあっていいですね。
お店に入って、すぐ左側に洗面台が。昔風で肩の力が抜ける感じですが、今の時代には向いてるかも。
1階はこじんまりとアットホームで落ち着いた感じ。テーブル席が7つ、お二階もあり個室も予約できます。
ランチはライス、スープ、サラダ付きで850円。
エビと玉子のチリソース/豚肉と玉ねぎの黒コショウ炒め/ピーマンと牛肉の炒め/豆腐と野菜のオイスターソース煮/焼き餃5五ケ/蒸し餃子5ケ/以上6種類が用意されています。
人気は初代の祖母から伝わる皮から手作りの餃子、三代にわたって味と製法は守り継がれています。 池波正太郎さんは酸辣湯の他、王さんは炒め物が得意だとエッセイで述べられており炒飯も旨いと。いつもは定食ですが、今回は炒飯と340円のプラス一品メニューがあるので焼餃子2ケを注文することに。
時間をずらしてきたので店内は混んでいなくて、注文してまもなく料理が運ばれてきました。
まずは餃子ですが大きい、「不要醤油」タレなしでとあります。そのままがぶりといきましょう。
確かに味がしっかり付いています、このままで美味しくいただけます。皮は分厚くてもっちりで餡たっぷり、ニンニクは使われていませんがニラがアクセントになって深みのある味に仕上がっています。
ご飯のおかずではなく、このまま単体でいくつでも食べられそう。
ランチじゃなければ間違いなくビールです。
今回は焼餃子でしたが、水餃子も餡ともちもちの皮がジューシーにやさしく響きあって美味しいと思います。
餃子ですでに気持ちは舞い上がってしまいました。炒飯の方はといいますと、これまた正解。
いい味出してます。ご飯パラパラのさっぱり系ですが、しっかり炒めてあって奥深い味わいです。
醤油ベースのチャーハンスープではなく、こちらの野菜のスープがベストマッチ。
お向かいのテーブルには、人気の酸辣湯麺が運ばれてきました。この距離から見ても超美味しそう。
他のお店でもそうなんですが、他人の注文した物ってとっても気になりますよね。
みなさんはどうですか?
こちらは、酸味が聞いているので、暑い夏でも食欲が無いときに良さそうです。
黒コショーがアクセントと言うのもひかれるところ。
蒸しも捨てがたいけど、水餃子と酸辣湯麺を次回への宿題として、今回はごちそうさまでした。
山東省に生まれた母上に教えられた餃子は、この店の売りものになった。
池波正太郎 むかしの味 p147
王さんにいわせると、餃子は、何といっても蒸し餃子と水餃子に、
「トドメをさす」ということだ。
蓬莱閣の餃子には、ニンニクが入っていない。そのかわり、ニラをつかって独自の味を出す。
そして、安い。あまりの安さに、びっくりする。
「できるかぎり、安くて旨いものを食べていただきたい。
ここは自分の家だし、コックは私だし、店のほうは家内がやってくれるので、いまのところは何とか、この値段でやっていけます」
と、王さんはいう。
⇩ラーメン チャーハンはこちらへ
徳記
関帝廟の斜め向かい、黄色に赤の文字で純広東料理 徳記 とゲート看板があります。
これを目印に関帝廟通りから少し入ると右側に昔懐かしいタイル壁が徳記さん。
赤のれんの廣東料理の文字と黄色看板の特製手打ちそばの文字が懐かしさと食欲をそそります。
改装されていますので清潔感が漂う新しいテーブルはじめ、とてもきれいな店内です。
むかしのお店の様子をご存じの方には、この近代化はある意味ちょっとがっかりかも。
池波さんが訪れていた頃とは別の雰囲気ということになりますが、これも時代の流れですね。
お姉さんたちの甲高い中国語が飛び交います、活気があるというか賑やかというか日本にはない風景。
あの有名な名物女将がいらっしゃらないのも、時の流れを感じずにはいられません。
さて、メニューです。週替わりランチとして4種用意されています。
こちらも昔とは違い、どれも他店では見られない本格的な魅力あるオリジナルメニューです。
鶏肉の甘酢掛け/カレー味の骨付き肩ロースフライ/豚肉の細切りとズッキーニ炒め/赤魚のXO醤炒め
これらにスープ、ザーサイ、デザートが付いて790円です。通って順番に食べたい気分。
このほか、名物の豚足麺 1150円/海老ワンタン麺+半炒飯 850円/海老入り焼きビーフン 790円/豚角煮麺+春巻1本 790円/鮭チャーハン+ミニワンタンスープ 790円/となってます。
いつもは定食ですが、今回は池波さんを偲んでということで麺です。
人気の豚足麺を注文されるお客様が多いのですが、コラーゲンは十分足りているので海老ワンタン麺のランチを頼むことにします。期待されてた方、ごめんなさい。
10分ぐらい待ちましたでしょうか、お・ま・ち・ど・う・さ・までしたとお姉さま。
Oh!!!~美しい!まずはスープから。透明で繊細な塩味はサッパリいただけます。
海老ワンタンもプリプリ、青菜もシャキシャキで最高の組み合わせ。贅沢なひと時です。
注目の麺ですが、平打ちの手打ち麵、結構コシがあって噛み応えがあります。
なるほど、これが本にも書かれている腰の強いそばということか。「ラウメン」だ。
今は時代も変わって、色々なタイプの麺が気軽に味わえますが昔は珍しかったんでしょうね。
チャーハンも手抜きなしのしっかりとしたお味でした。
昔とは変わってしまった徳記かもしれませんが、徳記ブランドは変わっていません。
今は、四川料理もメニューで推しています。
レバーの四川味炒めや白身魚の四川風煮込み、四川風マーボー豆腐もあります。
伝統を守っていくと同時に、新たな挑戦をされているネオ徳記さんも応援したいと思います。
中華街の大通りから一筋外れた所にある支那飯屋の〔徳記〕も、その時期の私が見つけた店だ。あえて、むかしふうに支那飯屋とよびたい。
散歩のときに何か食べたくてなって p115
さびれた裏通りの袋小路の奥にある〔徳記〕のラーメンのうまさは、横浜出身で、明治末期の支那飯屋のラーメンを懐かしがっていた亡師・長谷川伸に、ぜひ、食べさせたかった。
亡師は「ラーメン」といわずに「ラウメン」といった。
手打ちの、腰のつよいそばが、いまでも食べられる。
店も改築され、料理の数も増えたが、この店の気やすさと安価でうまい料理にはたくさんのファンがついているのだ。