前回の第4弾「医者が教える 食事術」に続き、今回ご紹介するのは「腎臓が寿命を決める」です。
サブタイトルは、老化加速物質リンを最速で排出する。
そして帯には、45歳以上の1/4はすでに危険な状態というショッキングなコピーが。
人間はなぜ老化するのか、人の寿命の長さはいったい何によって決まっているのか、この問題を解き明かす重要な手がかりが「腎臓にあった」と言ったら、みなさんは驚くでしょうか。
こんな問題提起からはじまる本書は特にシニアには必読書と思いセレクトさせて頂きました。
「沈黙の臓器」が今、語りだす——普段あまり気にすることがなかった臓器「腎臓」。
豊かな老後を過ごすための秘訣、学びましょう。
「腎臓が寿命を決める」 黒尾誠
著者の黒尾誠さんは自治医科大学分子病態治療研究センター抗加齢医学研究部教授。
腎臓とリンの関係から老化の仕組みを解明する研究を続けていらっしゃいます。
余分なリンを腎臓から排出させる老化抑制遺伝子「クロトー」を発見。
クロトーとは命の糸を紡ぐギリシャ神話の女神に因んで名付けられたそうです。
クロトー欠陥マウスはなぜ早く老いるのかの研究をはじめ、老化研究においてグローバルでご活躍中です。
研究室では下記3つの仮説を証明することを目指されています。
・リンが老化を加速する
・慢性腎臓病はリンが原因の早老症である
・Klotho-FGF内分泌系は老化関連疾患の治療標的である
「腎臓? ああ、おしっこをつくっている臓器でしょ」という程度の認識しかなかった方も多いかもしれません。また、「リン」と言われても、「リン? たしか、元素記号Pのミネラルだったよね」という程度の認識しかなかった方も多いかもしれません。
p10
しかし、そうゆう”地味な存在”でしかなかった腎臓とリンが、じつはわたしたちの老化や寿命のカギを握っていたのです。
腎臓は「生体内の状態を一定に保つ」ことによって私たちの命を守ってくれているそうです。
不必要なものは尿とともに排出、必要なものは体に戻して常に過不足のない状態をコントロールしてくれているんですね。おしっこだけとは思っていませんでしたが、私は深く考えたことはありませんでした。
老化や寿命を考えたとき、この管理調整機能が大切だということがすごく気になってきます。
また、リンという成分が動物の寿命に関係していて、血液中のリンが少ない動物ほど寿命が長い傾向があることが分かったそうです。腎臓以上にリンに関しては全く知識はなかったのですが寿命に関わると聞いては見過ごせません。リンを体内から排泄して調整しているのは腎臓。腎臓とリン、これを学ぶことが、老化を防止して寿命を延ばせるポイントの様ですね。
腎臓が寿命を決めていた
私は、人間は「体の中の環境を常に一定の最適な状態に保っていてこそ、健康に生きられる生き物」だと考えています。
p18.19
~中略~
ですから、「出す力」を衰えさせてしまってはいけません。
体に不要なものや摂りすぎたものを日々コントロールしながら体外に出しているのは腎臓です。すなわち、「不要なものを排泄する腎臓の力」を衰えさせてしまうことは、わたしたちの健康の根幹である「出す力」を弱めることにつながり、結果、老化を早めてしまうことにもつながっていくのです。
摂りすぎてはいけないものというと、糖分、塩分、脂肪分が浮かびますが、他にも過剰摂取に気をつけなくてはいけないもの、それが「リン」なんですね。リンはカルシウムと共に骨を形成している成分です。
80%はリン酸カルシウムをつくり、骨の主成分となっています。またDNAや細胞膜の主成分でもあります。
リンを摂りすぎていると次第に腎臓の機能が低下したり血管や細胞がダメージを受け老化のスピードが速まっていくことになります。余分なリンを体内にため込まないためにも「出す力」をしっかりキープ、腎臓の機能をしっかり保っていかなくてはならないのですね。
今日は何を食べようかな?入るものは、いつも気にしているのに、出す力なんて意識したこともありませんでした。しかし、これから気にするようにしなくてはいけないと痛感しました。
知るということは何にも増して大切なことです。
たとえば、FGF23が「リンを排泄して」という内容を載せたメールで、その知らせを受け取る「メールBOX」がクロトー遺伝子と思ってください。もし、クロトー遺伝子のメールBOXが壊れていたら、FGF23のメールは届かないままになってしまいますよね。骨がどんなにメールを出しても「リンの排泄依頼」は腎臓に受理されず、体内にリンがたまっていく一方になってしまいます。
p35
腎臓とリンと老化というワードをつなげるきっかけとなったクロトー遺伝子を30年ほど前に著者は発見。
排泄依頼を出すホルモンFGF23を受け取る受容体の役割を果たしているのです。
メールという例えがわかりやすいですね。リンが過剰になることを防いでくれているこのメール、発信機能が壊れても受信機能が壊れても異常は生じるわけです。
FGF23欠損マウスにも、クロトー遺伝子欠損マウスにも老化加速現象があらわれているそうです。
このメカニズムが判明したことは老化加速症状の改善につながる大きな出来事だったのですね。
更に怖いのは、血中リンが高濃度になると細胞毒のように働き、血液が流れる全身が毒にさらされ血管はボロボロになり、臓器や細胞もダメージを受けること。これこそが「老化の加速」だと著者はにらんでいます。
この本を読まなければ老化とリンが関係あるなんて全く分からなかったことです。
複雑な問題を分かりやすく解説して頂いているので理解は深まりました。あとは対処法が知りたいところ。
リンが老化を加速する
そもそも、人間の骨はリンとカルシウムが結合した「リン酸カルシウム」によってできています。
p51
わたしたちがこの地上で重力に負けることなく活動できるのは、リンとカルシウムでできた硬くて丈夫な骨でしっかり体を支えているからであり、そうゆう点で見れば、わたしたちはリンとカルシウムのおかげで体を支えたり動かしたりできているようなものです。
しかし、もしこのリン酸カルシウムが骨以外のところへ溶けだしてしまったらどうなるのでしょう。
じつは非常に厄介な事態を引き起こし、わたしたちの老化や寿命に少なからぬ影響を与えるようになっていくのです。
わたしたちの骨は常につくり替えられていて、大人の場合、3~5年で全身のすべての骨が入れ替わるとされているそうです。このつくり替えを効率よく進めるために必要なのがリンとカルシウムということ。
リンとカルシウムのペアは、いつ固体化(結晶状)してもおかしくない状態にあり、常に危険と隣り合わせ。
血管など骨以外の組織でリン酸カルシウムが析出すると、その組織に石灰化を引き起こし、組織の機能が低下し不調や病気が発生、老化がどんどん加速していってしまう危険があるとのことです。
リン酸カルシウムは普段はタンパク質とくっついてコロイド粒子の形で血液中を移動しており、コロイド粒子はCPPと呼ばれている。つまり、このCPPこそが健康被害をもたらしている実行犯。
CPP?初めて聞いた名前ですが、何だか怖そうです。
著者はこのCPPが引き起こす症状として2種類の動脈硬化があると説明されています。
コレステロールなどの脂が血管(壁)にたまって血液の通り道を狭めるタイプ、もうひとつが血管石灰化によって起こる動脈硬化です。これはCPPが引き起こす動脈硬化で血管が石灰化によって硬くなるタイプです。
私事ですが、先日健康診断で血管の検査があり硬くなっていると診断され、硬さのレベルが分かるサンプルまで触らせて頂き脅かされたところです。このことだったんですね。
私の体内もCPPが増えているということなのか。。。動脈硬化か・・・ちと、まずそうですね。
この他にも、何も感染していないのに低レベルの炎症反応が継続的に現れる「非感染性慢性炎症」。
「慢性腎臓病」についても言及されていて、なんと日本では約8人に一人の1300万人以上が罹っている国民病と言っていい疾患、腎臓がじわじわと弱っていく怖い病気です。
また、リンの摂りすぎを警告するサインFGF23の値について、45歳以上の4分の1の方が黄色信号数値である53以上を超えていたという研究結果があるともおっしゃっています。
4人に1人が黄色というのは見過ごせる話ではありません。きっと私も。。。
気になる方は詳しく本書に書かれていますのでご覧ください。
「リンを減らすこと」は最強のアンチエイジング
私は、人の老化のスピードを勢いづけてしまうかどうかには、日々のリン摂取量がかなり影響しているのではないかと見ています。そして、これはすなわち、普段の食生活で口から入るリンの量を抑えていけば、老化スピードを抑えられる可能性が大きいということでもあります。
p121
老けやすさや若々しさに差がつく原因は老化加速物質リンにあるとされており、アンチエイジングにはリンの接種を減らすこと、「日々のリン摂取量の影響が大きいということ、すなわち普段の食生活で口から入るリンの量を抑えていれば老化のスピードを抑えられる可能性が大きい」と説明されています。
またリンには種類があり、減らす方法も具体的な対処方法が示されています。
リンは2種類、「有機リン」と「無機リン」
吸収されやすいタイプとされにくいタイプがあるそうです。
有機リンは肉類、魚介類、卵、乳製品、穀物などに広く含まれているリン。
無機リンは食品添加物として使用されているリンで、加工肉など、ほとんどの加工食品に含まれる。
リン制限のターゲットは無機リンです。
しかし、日本では事実上、加工食品中のリンは細かく表示しなくてもいい状態、リン添加物が野放し状態です。どの食品にどれだけ使われているのか皆目分からない状態に陥っています。
このような状態の中、どうやって添加物中のリンを減らしていくか。
手っ取り早いのは、「食品添加物が多そうなものはなるべく食べない、買わない」
この戦法を貫くのが一番の近道ということになります。
「食品添加物カットによるリン制限」自分なりの基準を決めて無理のないところからスタートしましょう。
また、食品添加物を減らしたい人のための12の心得の紹介として、どういった基準で食品添加物をカットしていけばいいのか、具体例が示されています。
ハム、ソーセージ、ベーコンなど加工肉、インスタント食品や日持ちがするもの、不自然な色や値段が安すぎるものは避ける事やなるべく「元の素材が分かる食品」を買うことなど示されています。
なるべく手作りのものを食べることを心掛けるのがいいようです。
日々意識して心がけていれば、そのちょっとした行動が積み重なって年月が経つとともに、かなりの量のリンが減らせることへつながっていくはずです。
リンの摂りすぎにブレーキをかけることができれば、老化のスピードにもブレーキをかけることができる。
老化という速い川の流れをゆったりとした流れに変えることができるとおっしゃっています。
そして著者の下記の著述部分が心に響きました。
もちろん、別に急ブレーキを踏む必要はありません。あまり目くじらを立てず、ゆとりと余裕を持った運転でゆっくりブレーキングしていけばOK。自分なりにできる範囲でブレーキをかけながらリンを減らしていけばいいのです。
p153
このようにアドバイスいただけると、肩の力が抜けてこれからの対処方法に冷静になれます。
また、骨低下を防ぐ治療手段として「運動」の必要性についても書かれています。
宇宙の無重力環境では、老化でよく見られる体の衰えが一部ものすごいハイスピードで進行します。
それは体を支える必要がなくなるからです。筋肉や骨が「体の重みを支える」という仕事から解放され働かなくてもよくなったせいで機能低下してしまうようになるわけですね。
骨という組織は荷重ストレスが増すと、そのプレッシャーに負けないようにと、リンとカルシウムを蓄えて丈夫になっていくものです。人間の祖先は地上で動くためにリンとカルシウムを骨に溜めるシステムを進化させたわけですが、動く必要がなくなると退化し老化が加速することになる。
やはり頭も体も使わなくてはだめなんです、シニアには身につまされるお話です。
この本で多くの新たな知識を得ることができました。
老化を防いで長生きするためのポイントは「腎臓」と「骨」、機能を弱らせないよう「出すこと」、「入るものに注意を払い」守っていくことが非常に重要ということ。
動くことには骨が不可欠、食べることには腎臓が不可欠。
こんなにシンプルで大切なことを今まであまり意識してこなかった自分に対する反省とこのタイミングでこの本と出会い、これからの生活に活かすことができる事に感謝です。
日々の行動に注意を払い老化を遅らせる努力を楽しみたいと思いました。